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Customer Experience · September 17, 2026

顧客と共にサービスを共創する

渡辺 蓮
1 min read
顧客と共にサービスを共創する
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顧客に「何がほしいか」を尋ねると、たいてい今あるものの改善案しか返ってこない。ボタンをもう少し大きく、待ち時間をもう少し短く、フォームをもう少し簡潔に——本人の頭の中にある「見たことのある正解」の焼き直しだ。ところが同じ顧客に、空白のキャンバスと付箋、そして実際にサービスの部品を組み立てさせる時間を渡すと、まったく違うものが出てくる。彼らは改善案ではなく、自分たちの生活の中にある本当のジョブ・トゥ・ビー・ダンを持ち込み始める。

これが顧客共創(コ・デザイン)の核心であり、多くの企業が誤解している点でもある。共創とは「顧客の声を聞くこと」ではない。顧客に手を動かして作らせることだ。声を聞くだけの調査は、顧客を評論家の椅子に座らせる。共創は顧客を設計者の机に座らせる。この違いが、生まれるアウトプットの質をまったく別物にする。

顧客共創とは何か、そしてなぜ「聞くだけ」の調査では不十分なのか

顧客共創とは、サービスやジャーニーの設計プロセスに顧客自身を参加させ、アイデア出し・プロトタイピング・評価の各段階で共同制作者として扱う手法を指す。マーケティング学者のC・K・プラハラードとヴェンカト・ラマスワミは、2000年発表の論文「Co-Opting Customer Competence」(Harvard Business Review、2000年1・2月号)で、企業が顧客の知識と能力を価値創造プロセスに組み込むべきだと論じた。当時はまだ珍しい主張だったが、いまではサービス設計の前提条件になっている。

問題は、多くの企業が「共創」と呼びながら実際にやっているのが単なるアンケートやフォーカスグループの延長にすぎないことだ。顧客に選択肢を見せて反応を聞く調査は、いくらでも大規模にできるが、そこで得られるのは好悪の判定であって創造ではない。マーケティング研究者スティーブン・バーゴとロバート・ラッシュが2004年に発表した論文「Evolving to a New Dominant Logic for Marketing」(Journal of Marketing、第68巻1号)は、価値は企業が作って顧客に届けるものではなく、企業と顧客が共同で生み出す(co-create)ものだというサービス・ドミナント・ロジックを提示した。この視点に立つと、顧客調査の目的そのものが変わる。「顧客が何を好むか」ではなく「顧客と一緒に何を作れるか」を問うことになる。

共創ワークショップは、実際には何が原因で失敗するのか

共創が機能しないとき、原因はたいてい顧客側ではなく設計側にある。もっとも多い失敗は、ファシリテーターがワークショップの結論をあらかじめ持って部屋に入ることだ。顧客の付箋を並べ替えながら、自社が既に決めていた方向に誘導してしまう。これは共創ではなく、承認の儀式にすぎない。

二つ目の失敗は、参加者の構成が偏っていることだ。声の大きいヘビーユーザーや、たまたま連絡が取りやすかった常連客ばかりを集めると、出てくるアイデアは既存サービスへの最適化案に寄る。本当に価値のある共創は、サービスを使わなくなった離反顧客や、まだ使ったことのない見込み顧客も同じ部屋に呼ぶことから始まる。

三つ目は、アウトプットの扱い方だ。ワークショップの成果物である模造紙や付箋の写真を撮って終わり、というケースが驚くほど多い。共創で出たアイデアがサービスブループリントや実装ロードマップに接続されなければ、参加した顧客は「意見を聞かれただけ」という感覚を持つ。これは通常の調査より悪い結果を招く。期待を持たせて裏切るからだ。

IKEAエフェクトは、共創がなぜ機能するのかをどう説明するのか

行動経済学には、共創がなぜ単なる調査より強力なのかを説明する明確な根拠がある。ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン、ダニエル・モション、デューク大学のダン・アリエリーは、2012年に発表した論文「The IKEA Effect: When Labor Leads to Love」(Journal of Consumer Psychology、第22巻3号)で、人は自分で組み立てたものに対して、既製品よりも高い価値を感じることを実験的に示した。自分で組み立てたイケアの家具やオリガミに対して、被験者は他者が組み立てた同一品よりも高い金額を支払う意思を示した。これがIKEAエフェクトと呼ばれる現象だ。

この効果は家具に限らない。サービス設計に当てはめれば、顧客が自分の手でジャーニーの一部を組み立てたとき、その顧客はそのアイデアを社内の誰よりも強く擁護するようになる。共創ワークショップに参加した顧客は、単なる情報提供者から、そのサービスの共同所有者に変わる。これはエンダウメント効果(自分が保有・関与したものを過大評価する心理的傾向)とも重なる。共創とは、顧客の頭の中にこの所有感を意図的に作り出す設計行為だと言い換えられる。

顧客に意見を求めるほど、企業は「顧客の好み」しか集められない。顧客に手を動かして作らせるほど、企業は「顧客の所有感」まで手に入れる。

デザイン研究者のエリザベス・サンダースとピーター・ヤン・スタッパーズは、2008年の論文「Co-creation and the new landscape of design」(CoDesign誌、第4巻1号)で、共創プロセスの成果は最終的な設計案そのものよりも、参加者の間に生まれる共通言語と信頼関係にあると論じている。これは実務の現場でも繰り返し確認できる感覚だ。ワークショップの後に残るのは付箋の写真ではなく、顧客が「自分たちが作った」と語れる物語である。

誰を共創に招くべきか、そして誰を招んではいけないのか

共創の質は、参加者選定の質に比例する。理想の顧客は「協力的で肯定的な人」ではなく「摩擦を語れる人」だ。選定基準は以下のように整理できる。

  • 離反顧客——サービスを使うのをやめた人は、既存の設計の欠陥を最も率直に語る。彼らを排除すると、共創は既存路線の微調整にしかならない。
  • ヘビーユーザーとライトユーザーの混在——どちらか一方だけでは視点が偏る。ライトユーザーは参入障壁を、ヘビーユーザーは深い不満を教えてくれる。
  • フロントラインの従業員——顧客だけでなく、実際に顧客対応をしているスタッフを同席させる。彼らは顧客が言語化できない運用上の摩擦を翻訳できる。
  • 極端なニーズを持つ人——アクセシビリティの課題を抱える顧客や、特殊な利用状況にある顧客は、平均的な顧客には見えない設計の穴を露呈させる。
  • 意思決定に近い社内関係者——ワークショップで出たアイデアを後で潰す立場の人間を、最初から部屋に入れておく。事後承認より事前関与のほうが、実装への抵抗は圧倒的に小さい。

逆に避けるべきは、企業を喜ばせようとする「模範的な常連客」だけを集めることだ。彼らは対立や不満を口にしない傾向があり、結果として当たり障りのないアイデアしか出てこない。

共創ワークショップをどう設計するか

実際に共創を機能させるには、思いつきのブレインストーミングではなく、順序立てた設計プロセスが必要になる。私たちが現場で繰り返し使っている進行は次のとおりだ。

  1. ジョブを定義する。顧客に「何が欲しいか」ではなく「何を成し遂げようとしているか」を最初に語ってもらう。ここで扱うのはジョブ・トゥ・ビー・ダンであって、機能要望ではない。
  2. 現在のジャーニーを一緒に描き直す。社内が用意した既存のジャーニーマップを見せるのではなく、顧客自身の言葉と付箋で、実際に体験した順番通りに出来事を並べてもらう。ここで社内の想定と現実のズレが最初に露呈する。
  3. 感情のピークと谷を特定する。各ステップで「もっとも良かった瞬間」と「もっとも悪かった瞬間」を顧客自身にマークさせる。これはピーク・エンドの法則(カーネマンらの研究)を踏まえた設計で、顧客の記憶に残っている摩擦点を正確に拾い上げるために有効だ。
  4. 制約を共有する。「予算は無制限」という前提での理想論は実装されない。規制、コスト、技術的制約を早い段階で開示し、その制約の中でのアイデア出しに切り替える。
  5. 手を動かしてプロトタイプを作らせる。紙のワイヤーフレーム、ロールプレイ、簡易的なサービスの寸劇——形式は問わないが、顧客自身に組み立てさせる工程を必ず入れる。ここがIKEAエフェクトを発生させる核心の工程だ。
  6. その場でアイデアに優先順位をつける。顧客と社内メンバーが一緒に、実現性とインパクトの二軸でアイデアを並べ替える。持ち帰って社内だけで評価すると、顧客の熱量は消える。
  7. 次のステップを顧客に見せて終える。「このアイデアはロードマップの何にどう反映されるか」をその場で明言する。これを省略すると、参加者は自分の労力が消費されただけだと感じる。

このプロセスに共通するのは、顧客の発言を記録するだけでなく、顧客の手を動かす工程を必ず組み込んでいる点だ。発言は編集できるが、組み立てた成果物には顧客自身の指紋が残る。

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共創した成果をサービスブループリントにどうつなぐか

ワークショップの熱量は、放っておけば一週間で消える。共創が組織的な価値を持つのは、その成果がサービスデザインのプロセスに正式に接続されたときだけだ。具体的には、共創で洗い出した顧客の感情のピークと谷を、フロントステージ(顧客が直接体験する行動)とバックステージ(従業員の行動や裏側のプロセス)を分けて可視化するサービスブループリントに落とし込む。ニールセン・ノーマン・グループのジャーニーマッピングに関する解説が指摘するように、ジャーニーマップは顧客視点の可視化にとどまるが、ブループリントはその裏側にある運用責任まで結びつける点が異なる。共創で出てきたアイデアは、この裏側の責任者(誰が、いつ、どの部門で対応するか)まで明記されて初めて実装可能になる。

ここで実務上よく起きる衝突が一つある。顧客が共創で提案したアイデアが、既存の業務プロセスやシステムと真っ向から矛盾するケースだ。このとき、ブループリントを描き直す作業そのものが、社内の部門間の利害調整を可視化する装置になる。共創ワークショップの成果をCXジャーニーの設計に統合する際は、顧客のアイデアをそのまま実装するのではなく、制約条件との衝突点を明示したうえで、優先順位付けされたロードマップに変換する作業が欠かせない。

共創の成功をどう測るか

共創ワークショップの成功を「参加者の満足度アンケート」だけで測るのは不十分だ。満足度は、その場の雰囲気の良さを測っているに過ぎない。実務で意味のある指標は次の三つに集約される。

第一に、実装到達率——ワークショップで出たアイデアのうち、実際にロードマップに乗り、期限とオーナーが割り当てられた割合。これがゼロに近ければ、そのワークショップは形式的な儀式だったと判断すべきだ。第二に、顧客の再参加意欲——次回も呼ばれたら参加したいと答える顧客の割合。共創で信頼を築けていれば、この数字は高くなる。第三に、従業員側の行動変化——共創に同席したフロントラインの従業員が、その後の業務で顧客への説明の仕方や優先順位づけを変えたかどうか。これは従業員エクスペリエンスの観点からも見逃せない副次効果だ。共創は顧客だけでなく、社内の顧客理解の解像度を上げる装置でもある。

共創が形骸化する兆候とは何か

共創プログラムは、時間が経つにつれて儀式化しやすい。次のような兆候が見え始めたら、プロセスを根本から見直す必要がある。

  • 同じ常連顧客が毎回招集され、新しい視点が入らなくなっている。
  • ワークショップの結論が、開催前にすでに社内資料として存在していた内容とほぼ一致している。
  • 成果物が実装ロードマップではなく、社内プレゼン資料の「顧客の声」スライドとしてのみ使われている。
  • 参加した顧客に対するフォローアップの連絡が一切なされていない。
  • ファシリテーターが顧客の発言を要約する際、都合の良い部分だけを強調している。

これらの兆候が一つでも当てはまるなら、その組織がやっているのは共創ではなく、社会的証明(ソーシャルプルーフ)を得るための演出だ。「顧客と一緒に決めました」という体裁は、意思決定の正当化には使えても、サービスの質そのものは改善しない。

共創は一度きりの儀式ではなく、継続する能力である

共創がもたらす最大の変化は、特定のワークショップの成果物ではない。それは、組織が顧客を「調査対象」から「共同設計者」として扱う習慣を身につけることだ。この習慣が根づいた組織は、新しいサービスを立ち上げるたびに顧客を招集する必要すらなくなる。顧客の視点で考える回路が、社内の設計プロセスそのものに組み込まれているからだ。

逆に言えば、共創ワークショップを一度開いただけで「顧客中心の会社になった」と満足するのは、もっとも危険な錯覚だ。IKEAエフェクトが証明しているのは、労力をかけて作ったものへの愛着であって、その愛着は一度作った瞬間に消費される。次のサービス、次の摩擦、次のジャーニーに対しても、同じ手間をかけて顧客の手を動かしてもらう覚悟がなければ、共創は一過性のイベントで終わる。サービス設計とは、顧客と共に作り続けるという決断そのものだ。

私たちは共創ワークショップの設計から、その成果をブループリントとロードマップに落とし込むところまでを一貫して支援している。自社のサービスデザインの取り組みが顧客と一緒に作られているか、それとも顧客について語られているだけかを見極めたい方は、まずCX成熟度アセスメントで現在地を確認するところから始めるとよい。関連する視点として、顧客とサービスを共創する実践認知負荷とジャーニーの複雑さについての論考も合わせて読んでほしい。

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